恥部の思想

アイドルについての書かれない報告

ネクロノマイドルの慎み深さについて

ネクロノマイドルの自己紹介フレーズは、「アナタの息の根止めちゃうゾ」……誰が考えたか知らないが、とても秀逸なフレーズだと思う。「ゾ」が良い。とにかく「ゾ」がイイのである。「止めちゃうゾ」の”ゾ”の部分に惹かれて、わたしはネクロノマイドルのオタクになった。もし、それが「アナタの息の根止めさせて!」だったら、私は裸足で逃げだしていただろう。


しかし、まあ、正直いうと、最初にネクロノマイドルの存在を知った時、私は地雷臭しか感じなかったのだった。暗黒、幻想、神秘、耽美……、そんなキーワードと女の子がむすびつくと、まるでロクな事がない。自分の過去を振り返ると、自称・暗黒少女は、基本、メンド臭い人間ばかりだったから。


そう、澁澤だのバタイユだのサバトだの毒薬だの瀧口だのユイスマンスだのゴシックだのカバラだの言い出す女の子に、私は何度も痛い目にあってきたのだった。そうした女の子は、ちょっと心許すと夜中2時に電話をしてきて、どうでもいい私語りをはじめ、でも、こちらも下心があるから邪険に出来ずに、それが毎晩続くから、もしかして後腐れなくHな事出来るかも、と、ちょっと食事にでも誘ってみると、当日ドタキャン。そして、まわりに私の悪口吹聴する。ああ、とにかく勘弁してほしい。


そんな訳で、「暗黒系」を自称するアイドル、ネクロノマイドルも、そんな類の傍迷惑なグループだと思っていた。白塗りの女の子がメンバーにいるだの、シューゲイザーブラックメタルやダークウェイブなどの周縁的な音楽ジャンルに取り組んでいるだの、丸尾末広がアルバムジャケットを書いているだのの情報は、不安を煽る不吉な前兆でしかない。


しかし、「アナタの息の根止めちゃうゾ」である。その無邪気で残酷な言葉の響きには、暗黒だの幻想だの口走る女の子特有のナルシズムがまるでない。「ゾ」からは、ペロッと舌をだして、悪戯っぽい笑みをうかべながら、暗黒と戯れる美しい少女の姿が頭にうかぶ。自称暗黒少女のように、リストカットの傷口みせびらかして、私を振り回すことは、絶対にない。

「アナタの息の根止め止めちゃうゾ」のネクロノマイドルは、ジメジメした自己愛と無縁で、カラッと乾いている。それは、「慎み深い」と言い換える事もできるだろう。そして、慎み深さこそ、ネクロノマイドルの、なによりの美点だと私は思う。


ネクロノマイドルの歌詞に目をむけてみる。

アイドルソングといえば、歌い手である女の子の「心」「キモチ」「自意識」「思い」を歌詞にするのが定番だ。「暗黒」をテーマにしているネクロノマイドルだったら、例えば、肉体と精神のバランスが不安定な女の子の内面の闇に焦点をあてるなんてやり方もあっただろう。それを行えば、多くのオタクたちが「エモい」「エモい」と言ってくれたはずだ。

しかし、慎み深いネクロノマイドルは、そんなちっぽけな「私」に拘泥しない。コズミックな(!)視点で言葉を紡ぎ、盲目にして白痴の神アザートスに祈りを捧げる。ジメジメとした、安易な共感の磁場の形成を拒むように。

安易に感情に訴えかける表現、つまり陳腐な表現が横行するなか、ネクロノマイドルのこの選択はとてもクールでカッコいい。私を惑わした自称暗黒少女も、見習ってほしいものだとおもう。


しかし……、と、自分を省みる。痛い思いをしたのは事実だが、自称・暗黒少女は色白で可愛かった。自意識をもてあました不安定な女の子には、保護欲をそそるような、抗いがたい魅力があった。そんな女の子が、自分も興味を持っている暗黒やら、オカルトやらサブカルチャーを好んでいるとなれば、やはり仲良くなりたい、と思ってしまう。でも、振り回され痛い思いするのは、もう嫌だ。


私がネクロノマイドルに夢中になり、足繁くライブに通っているのは、そんな果たせなかった、自称暗黒少女との恋愛の代償行為なのかもしれない。慎み深く、クールに、そして悪戯っぽく、「暗黒」と戯れるネクロ魔ちゃんたちなら、仮に私と恋愛することになっても、夜中2時に電話してきて、自分語りに付き合わせる事もないだろう。

NEMESIS

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